例えば、小松の車の中での二人のやりとりを録音したものもあった。島田さんはそれを聞いたことがあった。すさまじいものだったという。泣きながら別れて下さいと哀願する詩織さんに、小松は大声でわめいたり怒鳴ったり、そして時には大笑いまでしながらこう言ったのだ。
「ふざけんな、絶対別れない、お前に天罰が下るんだ」
「お前の家を一家崩壊まで追い込んでやる。家族を地獄に落としてやる」
「お前の親父はリストラだ。お前は風俗で働くんだ」
このテープを聞いても上尾署のその刑事は「これは今回の件とは関係ないね」と聞く耳を持たない。詩織さんと両親は、二日間一生懸命事情を説明したが、結局「事件にするのは難しい」で済まされてしまった。
テープは警察で一応預かるというが、何かをしてくれるとは到底思えなかった。詩織さん達は、警察に失望して上尾署を後にした。
(『桶川ストーカー殺人事件 遺言』清水潔)