それから数千年(人類300万年という長い歴史からすればほんの一瞬)が経過して、人類は初めて新しい表現方法を発見した。文字の祖先である芸術だ。オーストラリアとタンザニアで発見された人類最古の洞窟絵画は、4万5000年以上前のものだ。私たちの祖先は、30万年前から石に奇妙な形を刻んだりしているが、これはそれとはまったく異なったもので、はっきりと動物や人間が描かれている。しかも、ある特定の集団、あるいは地域の限定されるものではない。今日までに、五大陸の160の国々で1000万以上の旧石器時代の絵画や印刻が発見されている。古代民俗学者エマニュエル・アナティ〔イタリア人、1930年生まれ〕は、こうした洞窟芸術の遺跡――
宗教的用語を用いれば多くは「聖堂」ともいえる洞穴――を、「文字の発明以前の人類の歴史に関する最も膨大な資料」と言っている。(『
人類の宗教の歴史 9大潮流の誕生・本質・将来』
フレデリック・ルノワール:
今枝由郎訳)