古代ウパニシャッドには、ヴェーダの祭式主義がなお名残(なご)りをとどめているが、はっきりとその表面に浮かび出てくるのは、祭式主義を脱皮して、宇宙の根源や人間の本質を主知主義的に究めようとする態度である。ウパニシャッドを転回点として、インド思想史上に新しい時代が開けてくる。表現はまだ理論的ではなく、神話的・直観的であるが、後代に学説化されるさまざまな思想の芽生えがそこには見られ、そして、宇宙原理ブラフマンと個体原理アートマンとの合一説に至って、哲学的な深まりは極致に達する。インド人の人生観に強い影響力をもつ業(ごう)・輪廻(りんね)の思想もここにはじめて確立される。(「インド思想の潮流」長尾雅人、服部正明)
(『世界の名著1 バラモン教典 原始仏典』長尾雅人〈ながお・がじん〉責任編集)
バラモン/ヒンドゥー教