ではいったい記憶とは何だろうか。細胞の中身は、絶え間のない流転にさらされているわけだから、そこに記憶を物質的に保持しておくことは不可能である。それはこれまで見てきたとおりだ。ならば記憶はどこにあるのか。
 それはおそらく細胞の外側にある。正確にいえば、細胞と細胞とのあいだに。
(『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか福岡伸一