私には、現代の混迷と混乱のもとにあるものは、結局、「
自由」と「
秩序」の観念をめぐるものだと思われる。「
欲望」と「
規律」といいかえてもよいだろう。「
解放」と「
権威」といっても同じことだ。これらの観念について、われわれは新たな定義づけ、新たな関係づけを求めている。別の言い方をすれば、これまで歴史的に生成してきた「自由」と「秩序」をめぐる思考がうまく機能しない、ということである。これは、端的にいえば、西欧の近代思想の挫折といってよいと思われる。なぜなら、「自由」と「秩序」をめぐる問題は、これまで基本的に西欧近代と呼ばれる知的枠組みのなかで論じられてきたからである。(『
西欧近代を問い直す 人間は進歩してきたのか』
佐伯啓思)