惨憺たる敗戦によってそれまでの神がかり的な皇国思想の迷夢から醒めた日本人は茫然自失した。大多数の知識人も喪家の犬のように右往左往した。戦争に積極、消極を問わず協力した知識人は、そのことを負目としていたうえ、戦犯扱いされる恐れもあったから、その贖罪と救済のためにも何か強力な救い主、メシアが必要だった。
そこへ戦争に反対して17年も獄中にあったという共産党幹部が出獄し、凱旋将軍のように迎えられた。また彼等の信奉する共産主義も革命とプロレタリアートの独裁による社会主義の建設を経て、共産主義社会という千年王国が地球上に実現するという福音を説くものであったから、メシアとしては十分の資格を備えており、風にそよぐ葦のようなか弱いインテリ連中は先を争って共産主義になびいた。
(『「悪魔祓い」の戦後史』稲垣武)
日本近代史