病の床の中で、書生さんを相手に碁盤を見つめる日がふた月も続いたのち、ここ数日はその力もなく、ただ仰向いているばかりでした。そして、「退屈や、退屈や」を連発しながら、ぽつりと、
「明日(あした)になったら死んでるやろ」
 と言って目を閉じました。それから間もなく昏睡状態に陥り、夜も明けやらぬ頃、春一番の嵐とともに旅立ちました。(鯨岡寧〈くじらおか・やすし〉/岡の娘婿)

情緒と創造岡潔