日本人の描いた〈風〉なら、江戸時代の僧・良寛(りょうかん)が書いたこの〈〉が一番。
 筆尖(ひっせん)が紙に垂直に打ちこまれる第一画の起筆(きひつ)の確かさがいい。加えて、第二画の転折(てんせつ)以降の、世界にうちふるえる繊細さがまたいい。孤独の痛さに耐え切る強さと世界を慮(おもんぱか)る弱さの合体した姿が美しい。書は環境の芸術なのだ。外の風はまだ冷たい。風邪を引かれないように。
(『一日一書石川九楊