100人の死は悲劇だが
 100万人の死は統計だ。(アイヒマン

 ジェノサイド(大量虐殺)という言葉は、私にはついに理解できない言葉である。ただ、この言葉のおそろしさだけは実感できる。ジェノサイドのおそろしさは、一時に大量の人間が殺戮されることにあるのではない。そのなかに、【ひとりひとりの死】がないということが、私にはおそろしいのだ。人間が被害においてついに自立できず、ただ集団であるにすぎないときは、その死においても自立することなく、集団のままであるだろう。死においてただ数であるとき、それは絶望そのものである。人は死において、ひとりひとりその名を呼ばれなければならないものだ。

(『望郷と海石原吉郎岡真理解説)

詩歌シベリア抑留強制収容所