地上における人間の全生涯の像(イメージ)が彼の心にひらめいた。人間の生涯とは、果しらぬ恐ろしい暗黒の中に、ちらと燃え上る、小さな焔の閃きにすぎないように思われた。人間の偉大さ、悲劇的尊厳、その英雄的栄光は、この焔のささやかさと、命の短さに由来しているのだ。彼は己れの生命は短く、そしてかき消されてしまうだろうこと、ただ闇のみが広大無辺にして永劫に続くことを知った。彼はまた知った。自分が挑戦の言葉を叫びながら死んでいくだろうこと、そしてその拒否の叫びが、心臓の最後の鼓動とともに、すべてを呑みこむ暗夜の深淵の中へと鳴り響くであろうことを。(『
汝再び故郷に帰れず』
トマス・ウルフ:鈴木幸夫訳)