トマス・ウルフ(1900-38)という男は、一言でいうなら、20世紀の開幕と同時に
アメリカ南部の山国で生まれ、ヨーロッパ大陸とアメリカ大陸を数回遍歴し、アメリカ生活の万華鏡と若者の飢渇を、噴きあふれる河のように書き、『
天使よ故郷を見よ』、『時間と河』、『
蜘蛛の巣と岩』、『
帰れぬ故郷』の四大作その他をのこし、1930年代の、彼の同時代作家らがアメリカ喪失に陥っている時に、いち早くアメリカ発見に到達し、
ナチス・ドイツ抬頭のころ、いわば、第二次世界大戦の前夜に、37歳の若盛りで死んだ、並外れたスケールの、不敵な、人生派作家である。(『
20世紀英米文学案内 6 トマス・ウルフ』大澤衛編)