こんどは担架の反対側を持っていた地元の救助隊らしい中年の男が声をかけてきた。
「お連れさんは残念なことをした……」
「お連れ……さ……ん?」
 谷山はもつれる舌で、上から見下ろす中年の男に聞き返した。
「あんたが背負ってきた男だよ。残念ながらすでに亡くなっておったから、あの硬直の具合からすると、息を引き取って1日や2日は経っているはずじゃが、あんたは見捨てず、自分の命も顧みずに背負って下りてきたんだな?」
 谷山は言い知れぬ恐怖で全身を震わせながらやっとの思いで声を出した。
「もしかして……その人は……?」
 中年の男はうなずいて、谷山の顔を覗き込み静かな声で言った。
「なに言っとるんだ、赤いヤッケの男だよ……」
(『山の霊異記 赤いヤッケの男』安曇潤平)