こうした(※アンケート調査で「霊は実体を持った存在である」と回答した)人々の中には、「自らの体験」だけでなく、「他者の体験」を根拠として採用する場合もある。この場合の「他者」は「自らの判断を準拠できる程度に信用できる他者」であって、あまり信頼性のない他者の判断は採用されない傾向がある。すなわち、「自分から見て一枚上手(うわて)の者」「自分より優れていると一目おいている者」「人間関係において自分よりも上位に位置する者」などが準拠の対象とされ易い傾向がある。また、「(母親が)見たことがある(と言っていた)」という事実を「霊が存在する証拠」と考える思考法の背景には、少なくとも、「母親が体験した(と主張している)ことは、客観的な批判の対象であるよりはむしろ、それ自身、真実であることの証である」と考えていることを示唆するものであり、母親を客体として見ることのできない、思考態度におけるある種の「マザー・コンプレックス」の一形態とも言える。こうした「引きずられた幼児性」は「自我(アイデンティティ)の未確立」の裏返しとも解釈できるかもしれない。(『霊はあるか 科学の視点から』安斎育郎)
科学/権威