私たちの心は、海に似ているではありませんか。それは、さまざまのものを中に蔵して測りがたい深みをもった、さだかならぬ塊です。蒼く不断にゆれて、潮騒(しおざい)の音をたてています。夜に、昼に、あらあらしく嘆いたりやさしく歌ったりしています。しかし、その底に何がひそんでいるのかは、自分にもよく分りません。その潮騒にじっと耳を傾けてききいると、その深みからつたわってくるのは、われらの胸の鼓動のひびきばかりです……。(『精神のあとをたずねて竹山道雄