私にも多少意外だけれども、彼について書くべきことは大体つきてしまった。サーバーはあいかわらず、といっても近頃はますます、歩き方ものろくなり、手紙の返事も書かなくなったり、小さい物音にもビクつくようになった。過去10年間、彼はコネティカット州の町から町へと落ちつきなく移り歩き安住の地を求めてさまよっている。枯野希望は、古い植民地時代の建物で、ニレとカエデに取りかこまれ、モダンな住宅設備が一切完備し、谷を見おろす場所である。そこで彼は毎日を、『ハックルベリ・フィンの冒険』を読み、プードル犬を飼い、地下室にブドウ酒をたくわえ、ルーレットをして遊び、気まぐれな中年期までなんとかつき合いをともにしてきた少数の友人たちと雑談をして暮らしたいと企んでいる。(『虹をつかむ男』ジェイムズ・サーバー:鳴海四郎訳)