内閣書記官長だった富田健治と風見章〈かざみ・あきら〉、首相秘書官だった岸道三〈きし・みちぞう〉、牛場友彦、一高時代からの友人である山本有三と後藤隆之助〈ごとう・りゅうのすけ〉、山本は作家、後藤は京大時代から特に親しくなった友人で近衛の政治ブレーン。さらに元同盟通信の松本重治〈まつもと・しげはる〉、東京帝大文学部教授の児島喜久雄〈こじま・きくお〉、かつての近衛内閣文相だった安井英二などである。
政治臭さが感じられないで、わずかな側近と作家やジャーナリストや大学教授ばかりが最後の宴に揃っていることがいかにも近衛らしい。(中略)
皆は帝大病院へ入院させる手立てを考えていたが、近衛は夕方になってさらにこうまで言った。
「巣鴨行きを猶予してもらうことは、やめにしたい」
ひとことゆっくりだが、きっぱりと言い切った。
(『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子)
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