ダンテは私にとっては近代第一の天才である。ダンテは深い闇の直中に光りかがやく太陽である。彼にあってはすべてが非凡である。彼の独創性は、とりわけ、彼に一つの特別な位置を与えている。アリオストは騎士小説と古代の詩とを模倣した。タッソもそうであった。ダンテはその霊感を他のいかなる人からも汲むことを肯(がえ)んじなかった。彼は自己に徹しようとした、ただ自己にのみ徹しようとした。一口にいえば創造しようとした。彼は広大な結構をとらえて、それを崇高な精神の持主の優越でもって満たした。彼は変化があり、恐ろしく、また優雅である。彼には奇想と、熱と、人の心を惹きつけるものとがある。彼は読者をして身ぶるいさせ、涙を流させ、敬意を覚えさせずにはいない。これは芸術の頂点である。いかめしくも偉大な彼は、犯罪に対しては恐ろしい呪いを浴びせかけ、悪徳を罰し、不幸を嘆いてる。共和国の法律によって追放された市民として、彼はその圧制者たちに対しては怒りを投げつけているが、故郷の町はこれを赦している。フィレンツェはいつになってもなつかしい、彼のやさしい祖国なのである。……私は、わが愛するフランスが、ダンテに匹敵する人物を産まなかったことについて、イタリアを羨む。(『ナポレオン言行録』オクターブ・オブリ編:大塚幸男訳)
ナポレオン