ダーウィンは、今日の学者を悩ませつづける問題をもうひとつ突き止めていた。実生活では、人間は近縁や遠縁の者だけでなく、血縁関係のない人をも助ける――生物学の見地からは、遺伝的共通性がないので、そんな利他的な援助は自分の適応度にとってコストが高いとしても。すると、こうした血縁関係のない受益者からなんらかの形でほぼ同程度の見返りがないかぎり、あるいは何かほかの種類の「補償」でもないかぎり、そうした行動をとる個人は、みずからの適応度を下げて相手の適応度を挙げていることになってしまう。端的に言って、進化が教えてくれることはあまりにも明白だ。理論上、利他行動を避ける身内びいきの者は利他行動をする者より優位に立てるので、寛大さは血縁関係のなかに限られるはずなのである。(『モラルの起源 道徳、良心、利他行動はどのように進化したのか』クリストファー・ボーム:斉藤隆央訳、長谷川眞理子解説)
フランス・ドゥ・ヴァール
フランス・ドゥ・ヴァール
アメリカでは「きしむ車輪ほど油を差してもらえる(声が大きいほど得をする)」のに対し、日本では「出る杭は打たれる」のだ。(『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』フランス・ドゥ・ヴァール:藤井留美訳)
野生チンパンジーに対する先入観は、さらにくつがえされる(1970年代、日本人研究者によって)。それまでチンパンジーは、平和的な生きものだと思われており、一部の人類学者はそれを引きあいに出して、人間の攻撃性は後天的なものだと主張していた。だが、現実を無視できなくなるときがやってくる。まず、チンパンジーが小さいサルを捕まえて頭をかち割り、生きたまま食べる例が報告された。チンパンジーは肉食動物だったのだ。(『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』フランス・ドゥ・ヴァール)
私たちの祖先は資源が乏しく、集団どうしで依存し合っていたので、大規模な戦争をはじめたのは、定住して農業に手富を蓄積しだしてからだった。その富のおかげで、ほかの集団を攻撃することのメリットが増えた。(『共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール)
「他者の苦痛に対するラットの情動的反応」という興味ぶかい標題の論文が発表されていた。バーを押すと食べ物が出てくるが、同時に隣のラットに電気ショックを与える給餌器で実験すると、ラットはバーを押すのをやめるというのである。(『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』フランス・ドゥ・ヴァール)
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