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(※スリランカ)政府が長年、貧民救済のためと膨大な補助金を出し、財政立て直しの邪魔をしてきた安い小麦粉は「米よりパンを好む金持ちのためよ、調べてごらん」と教えてくれたのも彼女だった。そのとおりの調査結果にアマ(※お母さん)の言葉を添えて提言したら、クマラトンガ大統領は、気付かなかった、恥ずかしい、ミエコのアマに礼を言うと、即時補助金廃止を決断した。その報告に「チャンドリカ(大統領)に、草の根を忘れてはいけない、いつでも私の家に泊めてあげるから、と言ってあげなさい」と、淡々としたアマだった。(『国をつくるという仕事』西水美恵子)
 ひとりの病む幼女に出会った。ナディアという名のその子を、看護に疲れきった母親から抱きとったとたん、羽毛のような軽さにどきっとした。緊急手配をした医者は間にあわず、ナディアは、私に抱かれたまま、静かに息をひきとった。(『国をつくるという仕事』西水美恵子)
 お茶をいただきながら女子教育はと尋ねると、女に教育は無駄と冷たい。なぜですかと問うと、コーランの教えだと胸を張る。しめたとばかり、どのスーラ(章)にそう書いてありましたっけと、手提げから取り出したコーランの頁を繰りはじめた。実は自分は読んだことがないと白状してくれるまで、時間はかからなかった。歴史的な観点から見れば、まるで女性解放革命宣言ともとれるコーラン。仏教徒だから深くは知りませんが、と断って女子教育や女性の地位に関した部分を拾い読みしながらのイスラム談義となった。(中略)
 それ以来、どこに旅しても頻繁に、慌てる同行の役人たちをなだめすかしては飛び入りの訪問のわがままをさせてもらった。普通、途上国の教師たちは田舎の学校が大嫌い。大枚を積んでまで政治家に取り入って、都会に転勤してしまう。最もひどいのは、そうでなくても不足がちな英語や数学の教師。事前通告なしの視察をするたびに見た、来ない先生を辛抱強く待つ幼い顔は、教育制度改革なしには援助融資拒否という姿勢を保つ原動力となった。
 スリランカの辺鄙な村では、もうひと月も待っているのと堪(こら)えきれずに泣き出した小学1年生の教室で、じゃあ今日だけでもと臨時英語教師になりすましたこともあった。ABCを歌い、童話を読み、感想文の発表会をし、楽しい一日を過ごさせてもらった。
 それを「変事」と聞いて飛んできた、土地の政治家の慌てた顔に、堪忍袋の緒が切れた。明日も来てとすがりつく子供たちの前で、私腹を肥やすより国の将来を思え、君はそれでも政治家か、人の親か、と激怒した。「先生ありがとう、もういいよ」と、一生懸命なだめてくれたあの子たちの澄んだ瞳を忘れることなどできやしない。
(『国をつくるという仕事』西水美恵子)