爪は彼が絞首台の上に立ってもまだ伸びつづけているだろう、いや宙を落ちて行くさいごの10分の1秒のあいだも。彼の目は黄色い小石と灰色の塀を見、彼の脳はまだ記憶し、予知し、判断をつづけていた――水たまりさえ判断したのだ。彼とわれわれはいっしょに歩きながら、同じ世界を見、聞き、感じ、理解している。それがあと2分で、とつぜんフッと、一人が消えてしまうのだ――一つの精神が、一つの世界が。(『オーウェル評論集ジョージ・オーウェル:小野寺健編訳)
 しかし、グローバル化が速度を増して進むなかで、何かが変わってしまった。かつて異文化の狂気の概念にみられた多様性は、休息に姿を消しはじめた。アメリカで認識されて社会に広められたいくつかの精神疾患――うつ、PTSD、拒食症など――は、今や文化の壁を越えて世界中へ伝染病のように広がっている。土地固有の精神疾患はアメリカ製の疾病分類や治療法によって、押しつぶされつつある。(『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ:阿部宏美訳)
 システマの産みの親は、スペツナズの教官だったミカエル・リャブコです。代々、戦士として戦ってきた家に生まれたミカエルは、5歳の頃から家伝の武術を伝授され、15歳でスペツナズに入隊。その後、軍人として華々しい戦果を挙げ、スペツナズ向けのテキストを執筆した事もある戦闘のスペシャリストです。その彼がリャブコ家に伝わっていた武術をもとにして生み出したのが本書で紹介するシステマです。(『4つの原則が生む無限の動きと身体 ロシアンマーシャルアーツ システマ入門北川貴英
 いま突如として、イギリスの地政学者ハルフォード・マッキンダーの亡霊が甦りました。20世紀の初めに活躍したこの地政学の泰斗は、「東欧を支配するものがハートランドを制し、ハートランドを支配するものが世界本島(ユーラシア大陸)を制し、世界本島を支配するものが世界を制する」と喝破しました。このハートランドの核をなすのがロシアとウクライナなのです。(『世界を操る支配者の正体馬渕睦夫
 文化人類学では、人間の文化は自分たちを取り巻く世界を構造化するものであるとする。その構造は、その文化を担う人々によって明示されている。それとは気づかぬまま、人々はその構造に従って認識し行動する。優劣を付けたり、差異化さらには差別したり、グループ分けしたり、強い関係、弱い関係を結んだり、関係を結ぶことを拒否したりする。(『ケガレ』波平恵美子)
【渡邉】いつも例に引くのですが、ノブレス・オブリージュ=貴族の義務という言葉がありますでしょう? 貴族の義務として、貧しき人々に分配するという。これは決して純粋な善意などではなく、貴族はそうしないと自分たちの身が危うくなるので分配するわけです。分配しないで一部の人(貴族)たちだけが蓄えると、政権が引っくり返ってしまう。(『仁義なき世界経済の不都合な真実』三橋貴明、渡邉哲也
 君は博識なことを話すが
 悲しむ値打ちのないことを嘆いている
 真理を学んだ賢い人は
 生者のためにも死者のためにも悲しまない

【わたし】も 君も ここにいる全ての人々も
 かつて存在しなかったことはなく
 将来 存在しなくなることもない
 始めなく終わりなく永遠に存在しているのだ

 肉体をまとった魂は
 幼年 青壮年を過ごして老年に達し
 捨身して直ぐ他の体に移るが
 自性を知る魂はこの変化を平然と見る

(『神の詩 バガヴァッド・ギーター』田中嫺玉訳)

バガヴァッド・ギーター
 20世紀の一大惨劇が「共産主義国家の勃興と崩壊」のドラマであったことは周知のこととなった。そして最大の悲劇といえば、ひとしく「社会主義者」の名を冠した3人の政治家、ヒトラースターリン、毛沢東の独裁政治によって、数千万の多くの無辜の人々が殺されたことである。しかし歴史家としていわせてもらえば、それらに隠されているのが、隠れ「社会主義者」であったルーズベルトの下での蛮行である。そのひとつは、日本を戦争に引きずり込むことによって、日本を「社会主義化」しようとしたことである。それは広島長崎への原爆投下を伴っていた。ここ20年のアメリカ国立文書館から公開された資料はそのことを示している。(『戦後日本を狂わせたOSS「日本計画」 二段階革命理論と憲法』田中英道)
 宗教的な意味における平等の概念は仏教によってはじめて自覚され、アジア諸国に伝えられるにいたった。(『東西文化の交流中村元
 書きたくないことだけを、しのんで書き、困難と思われたる形式だけを、えらんで創り、デパートの紙包さげてぞろぞろ路ゆく小市民のモラルの一切を否定し、十九歳の春、わが名は海賊の王、チャイルド・ハロルド、清らなる一行の詩の作者、たそがれ、うなだれつつ街をよぎれば、家々の門口より、ほの白き乙女の影、走り寄りて桃金嬢の冠を捧ぐとか、眞なるもの、美なるもの、兀鷹の怒、鳩の愛、四季を通じて五月の風、夕立ち、はれては青葉したたり、いずかたよりぞレモンの香、やさしき人のみ住むという、太陽の国、果樹の園、あこがれ求めて、梶は釘づけ、ただまつしぐらの冒険旅行、わが身は、船長にして一等旅客、同時に老練の司厨長、嵐よ来い。竜巻よ来い。弓矢、来い。氷山、来い。渦まく淵を恐れず、暗礁おそれず、誰ひとり知らぬ朝、出帆、さらば、ふるさと、わかれの言葉、いいも終らずたちまち坐礁、不吉きわまる門出であった。(「喝采」)『太宰治全集 2』太宰治
 例えば17世紀後半を主たる活躍の時期としたニュートン(重要な主著の一つ『光学』の出版は18世紀に入ってからのことであり、ニュートン自身は1727年まで生きたが)は、決して「近代科学者」ではない。むしろ、ここで言う「魔術」に近い自然理解を持っていたと言うことができるだろう。それは、彼が錬金術に生涯没頭していたという事実だけから言うわけではない。むしろ、彼の自然理解の全体が、このような15・16世紀ルネサンスの思想的な背景を色濃く背負っているからである。(『奇跡を考える 科学と宗教』村上陽一郎)

科学と宗教
 このように、おいしい料理を賞味したいのだが、料理を作ったことがないのでおいしい料理を食べることができない、などという人はいません。料理を賞味する人には、料理を作るための技能と知識は要求されません。
 同じように、決算書を読む人にも、決算書を作るための知識は不要です。
(『決算書はここだけ読め!』前川修満)
【日本を経由してアメリカに渡ることができた、この約6000人のユダヤ難民のなかから、その後、アメリカで国家・国境を越えたグローバルな金融システムを立ち上げ、ウォール・ストリートに進出する人たちが現れ、今日のグローバル経済の基礎がつくられたのである。】
 その象徴がシカゴの商品・金融先物のマーカンタイル取引所であり、同取引所を創設した名誉会長のレオ・メラメッド(現在82歳)氏はポーランド生まれ、リトアニアに逃れて杉原千畝の「命のビザ」によってアメリカに渡った人だ。(藤井)
(『世界経済の支配構造が崩壊する 反グローバリズムで日本復活!菅沼光弘藤井厳喜
 私たちが会話下手なのは、教育云々ではなく、むしろ、脳が未発達であることが大いに関係している。というのも、社会に対する意識や相手に共感する力、それに関連した言語スキルをつかさどる脳の領域が完全に機能するようになるのは、人間が30歳を迎えるころなのだ。(『心をつなげる 相手と本当の関係を築くために大切な「共感コミュニケーション」12の方法アンドリュー・ニューバーグ、マーク・ロバート・ウォルドマン:川田志津訳)

共感コミュニケーション
 薄暗くほこりっぽい店内で探索していると、しだいしだいに、自分のなかでなにかが煮詰まっていくような息苦しい気分になり、快楽を通り越して苦役に近い域にはいりこんでいった。しかし、その時には、こうした苦痛をつらいものとは考えず、むしろ〈蒐集主義者〉(60年代風に言えば)にとっての冬の時代、〈オタク教信者〉(今風に言えば)としての受難とか受苦という感じでうけとめていた。(『編集狂時代』松田哲夫)
 勝者敗因を秘め、敗者勝因を蔵(ぞう)す。
 勝った戦争にも敗(ま)けたかもしれない敗因が秘められている。敗けた戦争にも再思三考すれば勝てたとの可能性もある。
 これを探求して発見することにこそ勝利の秘訣がある。成功の鍵がある。行き詰まり打開の回答がある。これが歴史の要諦(ようたい)である。
(『日本の敗因 歴史は勝つために学ぶ小室直樹

日本近代史
 人は確かに、「ある時代のある場所に“まず”生まれ出た」ということを、「ある時代のある場所で“最後には”死ぬ」ことと同じように、選択の余地なき前提すなわち一種の「宿命」として受けとらざるを得ない。(『一下級将校の見た帝国陸軍山本七平
 海舟が蘭学を志したのは、「英米仏露の列強による脅威に対処するために、西洋兵学の必要性を痛感したため」であるといわれています。(『勝海舟とキリスト教』下田ひとみ)

勝海舟キリスト教
 強烈な光線が闇を切り裂いた。その中に、必死に逃げまどう女の姿が浮かび上がる。次の瞬間、銃声が鳴り響いた――テロリストがテロリストに向けて放った銃弾。一発目が背骨の低部に命中したのだろう、女は大きくのけぞり、金髪が滝のようにはじけて流れ落ちた。つづいて三発、狙撃手の自信のほどを示すように間を置いて発射され、襟首と頭部に命中した。女は泥と砂の小山のほうへ吹っ飛び、その指が地面をかきむしる。血に染まった顔はしかし、地面に突っ伏しているためによく見えない。やがて断末魔の痙攣が女の全身を走り抜け、と同時に、すべての動きが停止した。
 彼の恋人は死んだ。彼は自分がやらねばならないことをやったのだ。ちょうど、彼女が自分のしなければならないことをしたように。彼らはお互いに正しく、お互いに間違っていた。
(『狂気のモザイクロバート・ラドラム:山本光伸訳)
【人生は苦悩に満ちている】。
 仏陀の四聖諦(四つの聖なる真理)の一番目を瞑想しながら、ランボーは表面が磨き上げられた、美事な作りの古代の竹弓を握った。その弓を左脇に垂らし、眼を閉じる。息を吸い込み、吐き出す。そして、心の動揺を鎮める。筋肉で覆われた上半身が波打つ。力強い胸部と背中が拡がり、縮む。
(『ランボー3 怒りのアフガンデイヴィッド・マレル:沢川進訳)

ブッダ
 問題は生き延びることだけなのだ。
 存在そのものなのだ。
 苦痛さえすばらしいものに感じることができる。精神を正しい位置に置いてやればいい。過去と未来を心から閉め出し、いまこの瞬間が苦痛に満ちていたとしても、現在の鮮烈さだけを考えるようにすればいいのだ。
(『ランボー 怒りの脱出デイヴィッド・マレル:沢川進訳)
 これほど周囲に敏感になってことはこれまでになかった。戦争中、行動を起こす瞬間にこれに似た感情を経験したことはある。あらゆる動きがスムーズで正確になるのだ――走り、照準をつけるために身体を反転させ、そっと引金を引きしぼると、たしかな手ごたえが反動となって身体に伝わってくる。洗練された動きに生命がかけられていたのだ――そんなときのかれには肉体しかない。精神はどこかへ去っているのだ。その瞬間に存在しているのは、動きとまったく一致するかれの肉体だけなのだ。連合軍内にいた現地兵たちが、それは“ゼン”の境地だと教えてくれた。完全に停止した瞬間に到達する道で、長期にわたる困難な訓練と精神統一、そして固い決意でもってしなければ完成されないものなのだ。(『一人だけの軍隊 ランボーデイヴィッド・マレル:沢川進訳)
「軍隊は人を殺しておいて、そのあとで死を美化するのよ」(『血の誓いデイヴィッド・マレル:佐宗鈴夫訳)
 歯が痛いとき、われわれは当然、歯のことを直接に「知っている」と思っている。しかし、実際に知っているのは、脳のなかの知覚に関わる部位の、歯に相当する部分に、歯の痛みに相当する活動が起こっている、ということだけである。(『養老孟司の人間科学講義養老孟司
 日本人はいわば「隠れヒンドゥー教徒」であるといっても過言ではありません。(『バガヴァッド・ギーターの世界 ヒンドゥー教の救済上村勝彦

バガヴァッド・ギーター
 ところが、このグローバリズム共産主義は根は一つなのです。(『国難の正体 世界最終戦争へのカウントダウン馬渕睦夫
 実は89年2月のソ連軍完全撤退後も、ソ連は、アフガニスタン社会主義政権に武器の供与を行っていた。同国が後押ししていた社会主義政権のナジブラ政権が、アフガニスタン反政府ゲリラのムジャヒディンとの戦闘に持ちこたえられそうになかったからである。
 一方、米国も、ムジャヒディン側への武器の援助を続けていた。マルタで交わされたブッシュとゴルバチョフの握手の裏側で、アフガニスタンで米ソ双方は代理戦争を繰り広げていたのである。
(『アフガン戦争の真実 米ソ冷戦下の小国の悲劇』金成浩)

アメリカ
 今すぐCO2を削減しなければ、人類は大変なことになる、といった短兵急な話は、今すぐお金を振り込んでいただかなければ、御主人は犯罪者になってしまいますよ、といった振り込め詐欺と同じようなものだと思って間違いない。恐怖心を煽るのは他人を騙す際の常套手段である。(『正義で地球は救えない池田清彦養老孟司

環境問題
 インドや東南アジアに行くと、高温多湿な環境の中で、生命が簡単に死に、しかし、あっという間に生まれてくる強力な生命力を感じます。人が何度も転生し、別の生物に生まれ変わる輪廻という発想が出てくるのも実に自然に思えます。至るところに神々がいるという発想も、豊かな自然の中から生まれてきたのでしょう。(『池上彰と考える、仏教って何ですか?』池上彰)

アニミズム仏教
 20世紀の歴史には、列強のなかでもとりわけアメリカが少なからず虐殺を直接的にあるいは間接的に背後で扇動しただけでなく、ひとたび虐殺が生じたときには常に意図的に虐殺を抑制する政策はとらなかった、という事実が刻まれている。(『大量虐殺の社会史 戦慄の20世紀』松村高夫、矢野久編著)
「ジェイソン・ボーンという名前に聞き覚えはないかね」
「アジアに駐在していてその名前を耳にしたことがない人間なんていませんよ。35件から40件の殺人をやってのけ、これまでやつのために仕掛けられた罠(わな)という罠を巧みに逃れてきた殺し屋です」
(『殺戮のオデッセイロバート・ラドラム:篠原慎訳)
 前のまえにある物は、はじめて見る物ばかり。なにかが、ぼくをひっぱった。ひっぱられて、しばらくあるく。すると、おされてやわらかい物にすわらされる。ばたん、ばたんと音がする。
 いろいろな物が見えるけれど、それがなんなのか、わからない。だからそのまま、やわらかい物の上にすわっていると、とつぜん動きだした。外に見える物は、どんどんすがたや形をかえていく。
(『記憶喪失になったぼくが見た世界』坪倉優介)

記憶
 儒家は、外部からの強制をよしとしない。それは法家の発想である。それと同時に、無為自然をもよしとしない。それは老荘の発想である。儒家は、人間の本性に根ざしながら、それに基づく作動を他者と調和させ、学習して成長する道を求める。(『生きるための論語安冨歩

儒教
 飛び抜けて高い収入のある人にしか買うことのできないような本を書くというのは、文学を娼婦にすることにほかならない。(『ユダヤ人カリカチュア 風刺画に描かれた「ユダヤ人」』エードゥアルト・フックス:羽田功訳)

ユダヤ人
 その記事は事実と憶測から成る二部構成で、証拠が尽きたところから推測が引き継ぐといった体のものだった。(『暗殺者ロバート・ラドラム山本光伸訳)