辺り一帯に乱雑に打ち棄てられているのは、逆運に苦しむ阻害者の切ない思い、
 あるいは、心ない言葉に傷つきながらも、結局は隷従してしまう愚者の長過ぎる吐息、
 あるいはまた、ろくでもない病魔に魅入られた正直者の骨と肉とを容赦なく蝕む追懐の情。
(『見よ 月が後を追う丸山健二