かつて境界とは眼に見え、手で触れることのできる、疑う余地のない自明なものと信じられていた。しかし、わたしたちの時代には、もはやあらゆる境界の自明性が喪(うしな)われたようにみえる。境界が溶けてゆく時代、わたしたちの生の現場をそう名付けてもよい。(『境界の発生赤坂憲雄