昔の中学校の漢文の時間で、「この自はミズカラか、オノズカラか」という質問を先生からよく受けたことがある。それは、自に二つの意味があるという理解があったためである。
 ミズカラのほうは、自分で手を下して何ごとかをするばあいに使う。これにたいしてオノズカラは、自分が手を下さないでも、そのことが自動的に運ぶばあいに用いられる。もうすこし詳しくいえば、ミズカラには意識や努力がともなうのにたいして、オノズカラはそうした意識や努力を必要としないことをさす。もしそうだとすれば、ミズカラとオノズカラとは正反対の意味をもつことになる。
(『「無」の思想 老荘思想の系譜森三樹三郎