言葉を話せなくなった弱者に代わって、ものを言ってくれるのは、事故の痕跡しかありません。もし皆さんがご相談をお受けになった段階で間に合えば、事故車でも衣類でも持ち物ひとつでもいいから、その現場にあったものを保存するようにアドバイスしてください。いたずらにうろたえたり、嘆き悲しんだりしているだけでは、絶対に事故は解決できません。「泣くのは明日からにしなさい。今日は我慢して現場へ行って写真を撮ってきなさい」と、ちょっと厳しく残酷なようですけれども、とにかく証拠保全に全力を傾けていただきたいと思います。(『交通事故鑑定人 鑑定歴五〇年・駒沢幹也の事件ファイル』柳原三佳)