最も安全な日記の書き方――それはスターリンに一語一句読まれているところを想像しながら書くことだ。それでも、どれほど慎重を期しても、両義的な意味を含むフレーズがうっかりまぎれ込んでしまう危険は常にある。書いた文が誤解される危険だ。称賛が嘲弄(ちょうろう)と解されることもあれば、裏表のない追従が風刺(ふうし)と取られることもあるだろう。どれほど用心深い書き手であっても、考えうるあらゆる解釈からは身を守れない。畢竟(ひっきょう)、日記そのものを隠すことがひとつの自衛手段となる。(『エージェント6トム・ロブ・スミス:田口俊樹訳)