近代の人間の特質は、財(富)を肯定的にとらえることである。これに背を向けた思想は近代思想の仲間にはなれなかった。近代思想は財に対してこれをどう蓄積するか、管理するかという問題にとりくんできた。非主流の思想さえ、現実世界での豊かさを追求してきた。徳川幕府以降の近代日本において、仏教は生産労働、財の蓄積といった問題に関して、ガイドラインになるような思想形態を生み出すことはできなかった。(中略)
 空の思想は元来、富の蓄積とは反対の方向に走っているのである。
(『空の思想史 原始仏教から日本近代へ立川武蔵