「どうしてぼくのことを放っておいてくれないんだ?」
 私はまた彼の横に腰を下ろした。「なぜなら、お前さんが生まれた時からみんなが放ったらかしておいて、そのために今、お前は最低の状態にあるからだ。おれはお前をそのような状態から脱出させるつもりでいるんだ」
「どういう意味?」
「お前が関心を抱く事柄が一つもない、という意味だ。誇りを抱けることがまったくない。お前になにかを教えたり見せたりすることに時間をさいた人間が一人もいないし、自分を育ててくれた人々には、お前が真似たいような点が一つもないのを見ているからだ」
「なにも、ぼくが悪いんじゃないよ」
「そう、まだ今のところは。しかし、なにもしないで人から見放された状態に落ち込んで行ったら、それはお前が悪いんだ。お前はもう一人の人間になり始めるべき年齢に達している。それに、自分の人生に対してなんらかの責任をとり始めるべき年齢になっている。だから、おれは手をかすつもりでいるのだ」
(『初秋ロバート・B・パーカー:菊池光訳)