偶然性とは必然性の否定である。必然とは必ず然(し)か有ることを意味している。すなわち、存在が何らかの意味で自己のうちに根拠を有(も)っていることである。偶然とは偶々(たまたま)然(し)か有るの意で、存在が自己のうちに十分の根拠を有っていないことである。すなわち、否定を含んだ存在、無いことのできる存在である。換言すれば、偶然性とは存在にあって非存在との不離の内的関係が目撃されているときに成立するものである。有と無との接触面に介在する極限的存在である。有が無に根ざしている状態、無が有を侵している形象である。(『偶然性の問題』九鬼周造)