なるほど現代商品経済社会もまた、多くの片仮名語や新造漢語を生んだ。それもまた人類史上の文化的価値にはちがいない。しかしその一方で、理想の人間の共同を語る言葉は次第に痩せこけてきた。その衰弱した現代日本語を背景に、神戸のなんともやりきれない事件は起こっている。人間の共同社会の理想を明るみに出し、未来のあるべき仕事と生活のスタイルを思い描き、その希望を語る生き生きとした言葉を我々の周囲に満ちあふれさせることができれば、確実に、神戸のような事件は姿を消していく。しかし、言葉の再建に失敗するなら、神戸のような、否それ以上の事件が陸続するにちがいない。
(『逆耳の言 日本とはどういう国か石川九楊

山下京子