いつのまにか孟嘗君(もうしょうくん)の目が濡れている。その目をみた楽毅(がっき)は、自分を囲んでいたものが音をたてて崩れはじめたように感じられ、
 ――ああ、このかたは、人の深奥がわかるのだ。
 とおもいあたるや、どっと涙があふれた。
(『楽毅宮城谷昌光