かれらはまだ、右手に軍刀を、左手に辮髪頭(べんぱつあたま)の生首をつかんでいるわけではなかった。かれらはまだ、後手に縛りあげた女の後頭部を狙って小銃の引き金に指を掛けているわけではなかった。かれらはまだ、生きている者をまとめて穴に突き落とし、上からスコップで土を投げこんでいるわけではなかった。かれらはまだ、空中高く放った嬰児の真下で笑いながら銃剣を構えているわけではなかった。(『野に降る星丸山健二