田文(でんぶん)は夏候章(かこうしょう)に会い、
「なにが人を狂わせるのだろう」
 と、謎をかけるようなことをいった。
 夏候章という読書ずきの少年は、すかさず、
「虚(きょ)です」
 と、こたえた。謎にたいして謎でこたえたようなものである。
 田文は夏候章をみつめた。説明を待つ表情である。
「虚に実(じつ)はないのに、実をそこにみようとするから、狂うのです」
(『孟嘗君宮城谷昌光